「今、サッカーがめっちゃ楽しい。勝ちたい気持ちとゴールパフォーマンスが生み出す最高の雰囲気」
13 FW 矢形海優選手
マイナビ仙台レディースの選手に、これまでの歩みを振り返ってもらう「マイヒストリー」。それぞれのサッカー人生に物語があり、かけがえのない記憶があります。第7回は13FW矢形海優選手です。3シーズンぶりにマイナビ仙台レディースへ復帰したストライカーにこれまでの歩みと仙台で過ごす日々について伺いました。
サッカーの楽しさは点を取ることと勝った時の喜び。
――矢形選手は京都府のご出身。小さい頃はどんなお子さんでしたか?
「やんちゃ坊主というか……。とにかくやんちゃな子だったと思います。いつも外で遊び回っていて、女の子より男の子と遊んでいる感じでした」
――サッカーを始めたのはいつ頃で、どのようなきっかけでしたか?
「サッカーを始めたきっかけは、兄がやっていたからです。小学校1年生の時でした。兄を見て、自分もやりたいと言ったのが最初でした。でも父には反対されました。『女の子やから、もっと女の子らしいことをやりなさい』みたいな感じでした。でも自分はもう負けず嫌いだったので、その時から『絶対やる』って思っていました。プロになった今では、父は誰よりも応援してくれる存在です」


――小学校の時に所属した西京極ジュニアサッカークラブはどんなチームでしたか?
「地域のジュニアサッカークラブです。自分の学年では他に女子はいなくて、下の学年に1人、2人いたくらいかな。男子と一緒にサッカーをやっていました」
――小学生の頃はサッカーのどういうところが楽しいと思っていましたか?
「やっぱり点取ることとか、勝った時の喜びですね。楽しすぎて、もうずっとサッカー一途でした。小学校の時のポジションはサイドでした」

――中学生年代から、セレッソ大阪堺ガールズに入団します。ここで井上陽菜選手と一緒にプレーしますが、出会いはその前、関西トレセンだったそうですね。
「はい。小6で陽菜と出会って、お互いに友達のいない状態の中でトレセンに入りました。そこで一緒の部屋になって話すようになりました。京都トレセンと大阪トレセンで試合する時は、私はFW、陽菜はCB。京都はあまり強くはなかったので、お互い試合中でも、大阪が攻めている時はちょっと喋ったりして、そこからずっと仲良くなっているって感じです」
――前回のマイヒストリーで井上選手が全く同じ話をしてくれました。
「やばい!一緒になっちゃった(笑)」
――共通の良い思い出ですね。セレッソ大阪堺ガールズに入って、ここで初めて女子のチームで活動したのでしょうか?
「いえ、実は小6の時に女子のチームにも入っていました。元々のジュニアサッカーチームに行きながら、土日の試合だけ女子のチームで活動するという期間がありました。その女子チームのコーチからC大阪を紹介されて、セレクションを受けに行ったんです」
大人を相手に奮闘した高校時代。C大阪はまるでホームのような場所。
――当時のC大阪はどのような環境でしたか?
「中学から天然芝のピッチで練習をしていました。とても良い環境だなって思っていました。中1でチームに入りたての頃は138センチ。めっちゃ小さくて、周りにビビリながら毎日を過ごしていました(笑)先輩と一緒にプレーするということが初めてだったので、ドキドキしながら練習していました。チームは強かったですね。でも中学の時は、メンバー外になることも多かったので悔しい思いの方が強かったです」
――強力なライバルがいる状況だったのですね。その後、セレッソ大阪堺レディースヘ上がっていきましたが、当時、なでしこリーグでもC大阪はすごく若くて、元気で、勢いがあるイメージでした。
「高校時代も最初はガールズの方にいて、途中からレディースに上がらせてもらいました。C大阪がなでしこリーグに入った1年目で8連敗したのかな。結構苦しい状態だったんですけど、スフィーダ世田谷を相手に初勝利した時は、本当に嬉しかったことを覚えています」
――なでしこリーグでは対戦相手は大人のチームでしたよね。高校生と大人のチーム、その違いは感じてましたか?
「それは感じていましたね。C大阪の選手はみんな本当に上手かったですが、頭の回転やスピードはやっぱり対戦相手に上回られていたということは感じていました」
――改めて下部組織から育ってきたC大阪という場所は矢形選手にとっては、どういう場所と感じていましたか。
「もうホーム、家族って感じです。スタッフ、選手、サポーターを含めた一体感が本当にすごい。どう言ったらいいのかな。もう落ち着くという感じの場所です」

WEリーグ発足、初めて地元を離れて仙台へ。そしてC大阪への復活。
――ホーム、実家のような雰囲気かもしれませんね。2021年にWEリーグ発足のタイミングでC大阪からマイナビ仙台レディースに来るという決断をしました。
「C大阪がWEリーグに参入しないということもあったし、自分はやっぱりプロの世界でプレーするということが夢でした。そこで仙台からオファーをいただいて、もう迷いなく決めた感じです。でも親元を離れるのは初めてだったので、寂しい思いもありましたけど、やっぱり自分の夢のためには負けたくなかったので仙台へ来ました」
――WEリーグ初年度、松田岳夫監督や宮澤ひなた選手、長野風花選手など、なかなかすごいメンバーの年でしたね。
「はい、本当に面白かったです!」
――WEリーグ入ってプロサッカー選手になったということは選手として大きな変化だったのではないですか?
「やっぱり日常の過ごし方が大事だし、プロは試合に出て、常に結果が求められるという環境です。サッカーへの取り組みや考え方とかは変わったかなって思います」
――そして仙台では2シーズンを過ごしたタイミングで、セレッソ大阪ヤンマーレディースがWEリーグに参入。古巣に戻るという決断をしました。そこはどんな判断があったのでしょうか?
「戻るかどうかは迷いました。でもC大阪はWEリーグで1年目。自分が仙台でやってきて成長できたと思っていて、その成長した姿をC大阪で伝えてあげたい。チームを引っ張っていきたいという気持ちもありました。やっぱり小さな時からずっとサッカーをやってきた場所だったので、そこでもう一回頂点を目指したいという気持ちもあって戻りました」
――C大阪での日々はいかがでしたか?
「自分が思ってた以上に大変だったこともありました。WEリーグ1年目で仙台に入った時は先輩の方が多かった。私は20歳で入ったので、上の世代から学ぶことがたくさんありました。でもC大阪では、逆に自分がもう上の年齢で、みんなに見せていかなきゃいけない、教えていかなければいけないという立場。若いチームの中で副キャプテンをしていましたが、その大変さがやっぱり違ったかなって感じました」
――大変な中にも地元に戻ってのプレーは嬉しいこともたくさんあったのではないですか?
「試合は毎回、家族が見に来てくれました。関西で育ったので、関西の友達もやっぱり近くで応援してくれたということは本当に嬉しかったです」
――マイナビ相手にハットトリックを決めたり、とても活躍していたイメージがありましたが、昨季はなかなか点取れなかったり、いろんな葛藤がありましたか?
「前半戦で2桁得点できたのですが、その分マークも厳しくなっていき、後半戦は1点しか取れなかったです。自分の課題でもありますが、マークが厳しくなって難しくなった時にどう点を取るか。そこをこじ開けられなかったということは自分の責任ですけど、やっぱりもっと得点したい。成長したいっていう気持ちが大きかったのかなと思います」
今のマイナビ仙台レディースはサッカーへの思いが強いチーム。
――そういう思いもあって、再び仙台へという選択をしました。大親友の國武愛美選手もいますし、井上選手も仙台へ移籍してきて、再びチームメートに。しかしそれ以上に、マイナビ仙台も選手の顔ぶれが大きく変わっていたのでは?
「前にいた時とメンバーが全然違うなと感じました。年下の子が多くなっていますね。みんな真面目で負けず嫌いで、グラウンドに入ったら目の色が変わるというか、サッカーに対しての思いが強いチームだと思いました」
――昨季、マイナビ仙台は最下位。成績が出ず苦しんだチームでした。その中で、矢形選手は今季いろいろなことを期待されて入りました。特にシーズン序盤はそこのプレッシャーも、かなりあったんじゃないかなと思いますが……。
「ここに来た理由はチームを勝たせたいということもあったし、自分がもう一回成長したい、チャレンジしたいという気持ちもありました。最初は本当に『点を決めてくれるやろ』っていう感じのプレッシャーが多過ぎた感じがありました。戸惑いもあったけれどそれも関係なく、やらなくちゃという気持ちでした。最初の頃の試合は、引き分けが多く勝ちきれなかったじゃないですか。だから本当に申し訳ないなっていう気持ちがありました」
――ずっとゴールに近いところで仕事はしていました。アシストもありましたが、それでも、なかなか自分自身のゴールが決まらなかったり、オウンゴールになってしまったり……。
「めちゃめちゃ悔しかったです。引き分けで負けてはないけれど、勝ちきれない。引き分けというのが悔しかったです」
――しかし徐々に勝ちきれるチームになってきました。その辺りの変化はどう感じていますか?
「やっぱり今は全員から勝ちたい気持ちがあふれています。チームの一体感は試合を積み重ねる毎に高まっていて、一人一人が成長しているということは感じてます」
ゴールパフォーマンスで表現する、明るく楽しい今季のマイナビ仙台。
――チームの良い雰囲気というところでは、ゴールが決まる度に繰り広げられるゴールパフォーマンスも大きいと思いますが、矢形選手はそこでプロデューサー的役割も担っていますね。
「自分はやっぱりゴール決める側じゃないですか。FWは決めた後のパフォーマンスって結構やりたがりなんですよ。でも自分一人だけでしてもなぁって思って、みんなに相談してみたら一緒にやってくれるって。そこから毎試合新しいパフォーマンスを考えなきゃいけないということになっちゃったんで大変ですけど(笑)でもやった時は楽しいし、全員で奪ったゴールという感じのパフォーマンスなので、これからもいっぱいできたらいいなとは思ってます」
――ここまでで一番のお気に入りのゴールパフォーマンスは?
「WEリーグカップ千葉L戦の『チーズ!』(矢形選手がカメラマンになり、仲間の集合写真を撮るパフォーマンス)です。シャッターを切った時のみんなの笑顔が可愛すぎました」

――今まさに素晴らしい雰囲気の中でサッカーができていますね。サッカー選手としてのこれからを考えてどんなことを目指しながらサッカー続けていきますか?
「あまり自分で口にはしたくないんですけど、一番の夢は日の丸背負うこと。それを目指して日々練習していきたいなと思っています。あとは毎日毎日勝負だと思うので、焦れずに自分を出しながら毎日サッカーをしていこうと思っています」
――サッカーをしている子どもたちに何かアドバイスを送るとしたら、どういうことを伝えてあげたいですか?
「やっぱり一番はサッカーを楽しむことかなって思います。楽しむことを忘れたら何でも嫌になっちゃう。失敗して下を向いちゃう時があると思うんですけど、楽しむことを忘れなかったら『次、また頑張ればいいわ』と、私はそういう気持ちでやっています。どんどんサッカーが面白く、楽しくなっていくんじゃないかなって思います」
――矢形選手ご自身は、今、サッカーを楽しめてますか?
「めっちゃ楽しいです!!」

文・写真=村林いづみ