「本能のままにプレーする時間が楽しい。GKには正解がないポジション。だからこそ面白い」
16 GK 松本真未子選手
マイナビ仙台レディースの選手に、これまでの歩みを振り返ってもらう「マイヒストリー」。それぞれのサッカー人生に物語があり、かけがえのない記憶があります。第9回はGK16松本真未子選手です。そんな松本選手に彼女の歩みや今の思いを伺いました。
大きな変化の中で、自分にできることのみにフォーカスする
――4月、5月と2度の3連戦が続いています。松本選手は開幕から先発でゴールを守り続けてきた中で、第16節・浦和戦は初めてベンチとなりました。
「自分の中でも追い込まれていた時期でもありました。結果やコンディションなど、噛み合わない時間が多くかったです。レッズに挑みたい気持ちはあったのですが、ベンチから見て1つ冷静になれた自分がいました。そこはポジティブに考えています。」
――松本選手が外からゲームを見るということはなかなかない経験ですね。
「そう言ってもらえることがありがたいことだと思います。試合に出る喜びや出るからこその責任はもっと強く感じるようになりました。」
――シーズン中に監督、コーチの体制など大きな変化がありました。その中でも自分を高める努力は変わらず行ってきましたね。
「自分が関わって変えられることと、そうではないことがあります。それはサッカーに限らず、皆さんが生活している中でもありますよね。体制が変わっても、自分がやるべきことは常に整理しておこうと考えていました。」
浦和時代から取り組んできたメンタルトレーニング。
――整理して考えられるのは素晴らしいことですね。
「私はメンタルトレーニングも行っているので、いろいろな方と話す中で、自分の未熟さを感じることもあるんです。そういうところをメンタルトレーナーさんにもぶつけて冷静に返してもらうと、『そうだよねぁ。何事も学びだよなぁ』って思うんですよね。」
――自分の未熟さと向き合うことは、サッカー選手ではなくても怖いことですよ。
「怖いですが、GKというポジションはそこが全てというか……。GKに限らずですよね。今目の前にいる相手をどれくらいリスペクトできるかも大事ですが、そこに自分の長所をどうぶつけていくかということも、メンタルの持ち方ひとつなのかなと思います。マインドに関しては、限りなく成長できるなと思います。」
――メンタル面も鍛えようと取り組んだのはいつからですか?
「浦和レッズレディースに所属していた、筑波大学時代。4年生の時だったと思います。A代表のGKが勢ぞろいする環境で、ファーストGKの位置は常に狙っていましたが、現実的ではなかったです。技術やパフォーマンスのところで、必ずしも彼女たちに負けていないと思っていても、試合に出られない理由はどういうところにあるんだろうと考えていました。仙台に来て試合に出られるようになった今、あの時足りなかったことは何だったか考えると、メンタルの安定性もあったのかなと振り返ることがあります。」
――浦和では出場機会に恵まれなかった。そして今、仙台では正GKという立ち位置になっていて、試合に出るからこその苦しさや責任の重さもあると思います。そういう感情とはどう向き合っていますか?
「セカンドGKならではの“食いついていく”という大変さもありますが、“試合に出ていて、チームの結果が出ない”という苦しさの方がしんどいなと改めて思っています。でもそれは、試合に出ていない苦しさを知っているからこそなんですよね。自分が試合に出ている時は、出られないセカンドGKがいる。出る時は(齋藤)彩佳さんに恥じないようにと思っています。私を送り出してくれるということに緊張感を持たなければいけないと思っています。」
――プレッシャーはありますね。
「はい。なお更、今は失点数も多いですし、上手くいかないところもあります。そういうことは苦しいですが、それも今の学びかなと思っています。自分がどんな準備をして取り組んでいても、どうしても失点には関わってしまうポジションなので余計にそう思います。」
GKという特殊なポジション発揮する高いプロ意識
――GK1人だけの力ではゴールを守ることはできません。DFだけが頑張ってもそうはいかなくて、チームメート全体との関係性も重要になるポジションですよね。関係を構築していく、信頼をしあう上で大事にしていることは?
「頼る時も大事だと思っています。コースを限定すること1つについても、私が後ろにいたら前の選手はこっち側のコースを切ればいいとか、そういう安心感は常に与えたいですよね。そこは選手が変わっても同じようにできれば良いですが、そうでもなかったりする。この選手はこう来るのか、ということがそれぞれ違うので……。でも、そのリアクションで私のところでシュートを止めることができたら、私の守備範囲が広がるということでもあるのでポジティブに考えています。正解はないですね。だからこそ面白いポジションなのかな。」
――GKは考えることも多いですし、仕事が多いポジションな感じがします。
「そうなんですよ(笑)ボールが来ないと、中継には映らないと言われますが、それ以上に目に見えないところでやることは多いです。たくさんの準備をしているので、その大変さや楽しさがあります。」
――なぜGKという職業を選んで、プロになったのでしょうか?
「私は元々バスケットボールやドッヂボールなどの球技をやっていたということもあります。なぜサッカーに巡り合えたかと言えば、運もあるし、縁もありました。プロになったということは、本当にタイミングだったと思います。」
――2021-22シーズンからWEリーグという女子プロリーグが誕生しましたね。
「強く思うのは、このタイミングでWEリーグがプロリーグを始めていなければ、私はアマチュア選手のままだったということです。プロになったのは、自分の力ではないといっても過言ではないんです。作り上げてもらったところに入る。その難しさはあると思うんですが、プロとしてそこにいる責任もあるんです。“たまたまプロになれてしまった”と言えばそうだとも思うので。だからなお更、プロである責任というのはもっと感じなければいけないと思います。」
――松本選手は常にプロとしての意識を言葉にもしますね。WEリーグは3シーズン目。いろんな考え方、いろいろなルーツの選手がいます。プロとしての足並みをそろえるのも簡単ではありませんよね。
「今上位にいるチームと、そうではないチームの差はそこだと思います。プロになれたから、ではどうしなければいけないのか。自分の名前を売るためにはどういうことをしなければいけないかというところでは、まだまだだと思います。」
――まだまだできることがあると思いますか?
「はい。常にハングリー精神を持ってやっていきたいので、良い環境があるからこそ、そこに甘えたくはないなと思います。マイナビ仙台の環境はWEリーグで1番だと思います。全員プロで、午前中にこれだけ良いグラウンドを使うことができて、クラブハウスもあります。良い環境があるのに勝てないのかと言われたら、本当にその通りだと思いますし……。」
――勝つということは本当に簡単ではないと感じるシーズンです。だからこそ勝つことができた時の喜びも特別なものがあります。残りシーズンではどのようなことを高めていきたいですか?
「須永監督の新体制で取り組んでいることがやっと浸透し始めている、その入り口にいると思います。課題は明確に出ているので、一人一人が指摘されていることをどれくらい理解できるか。やり続けること、やり続けさせることが私の仕事でもあると思います。」
苦労や困難はすべて燃料となる。逆境でこそ輝く攻撃的GK
――これまで長くサッカーを続けてきて様々な経験をしてきました。松本選手が困難にぶつかった時、壁に当たった時は、どんな風に乗り越えてきましたか?
「その困難をガソリン、燃料にしています。上手くいっている時はつまらないというか、難しい状況があるからこそ『じゃあ、どうしようか』と考えることが好きです。ずっと考える性格なので。それが良くない時もあるんですけどね。」
――逆境に身を置くんですね。
「難しい!と思いながら、嫌いじゃないという(笑)」
――そういうタイプなんですね(笑)大変なことも多いですが、サッカーに取り組んでいて、どんな時が一番楽しいですか?
「GKって守りのポジションと思われがちですが、自分の中では常に駆け引きがあります。このFWはこう来るなとか考えますが、守りの中でも自分が攻めに出られた時は楽しいですね。相手にわざとスペースを空けておいて、蹴らせてキャッチするとか。守るという解釈ではなく、攻撃的なボールを出せた時とか……。ちょっと表現が難しいですが、攻めたくなります。」
――本能というところなのでしょうか。試合中、冷静に何でもないような表情で相手のシュートを止めるんですけど、松本選手の背中からはメラメラ燃えるものを感じるんです。
「出ちゃうんですよ、素直なので(笑)試合中は相手にバレないように、演じることも大事。必死で感情を隠すこともあります。隠さなくていいのにと傍から見て思うかもしれないですが……。結局バレているんです(笑)」
――これからサッカーを始める子やプロを目指したい、サッカーに関わりたい子どもたちへアドバイスを頂けますか?
「私がお世話になっている方によく言われるのは『あんたらしくいなさいよ』ということです。それは何だろうとまた考えるんですが、本能でゲームを楽しんで、本能でポジションを取って、本能でボールを出す。ひらめいたサッカーをしている時が自分らしいなって思います。自分が思うようにポジションを取っている時の方が上手くいくと思っています。どういう時に楽しんでいるかということを考えたら、苦しい時間にも肩の荷が下りる感じがします。本能、直感なんですよね。『〇〇しなきゃ』ということよりも、“らしく”が一番だと思います。」
文・写真=村林いづみ