「土台がしっかりしていれば、揺れることも崩れることもない。
当たり前ではない日々に感謝し、勝利できるベースをじっくり作り上げる。」
10 MF 中島依美選手
マイナビ仙台レディースの選手に、これまでの歩みを振り返ってもらう「マイヒストリー」。それぞれのサッカー人生に物語があり、かけがえのない記憶があります。第10回は10MF中島依美選手です。長くINAC神戸レオネッサでプレーし、日本代表としても活躍してきた中島選手。彼女の歩んできた日々や今の思い、考え方を伺いました。
攻撃の起点として、もっとゴールに関わる。チームの強みを生かしたい。
――WEリーグも終盤戦の戦いになってきました。最近のチームの状況はどう感じていますか?
「チームとして体制が変わって、目的や試合のやり方が明確になっています。試合のための練習ができているなと思います。起こった現象について的確に分析をしてもらえるので、チームとして全員の共通理解につながっているところが本当に良いと思っています。」
――新体制ではかなり明確な分析やフィードバックも行われていますね。
「個々が頑張るということは当然なのですが、チームとしてどういうサッカーをしていくのかというところも重要です。試合でミスは起きますが、それが次につながる意味のあるものになるようにできていると思います。」
――今、マイナビ仙台で取り組んでいるサッカーをどのように説明しますか?
「マイボールを大事にしながら、無理はしない。その中で全員が同じ絵を描きながら、ゴールに迫っていくというところです。無理に攻めるのではなく、相手を揺さぶりながら、右が無理なら左に展開する。やり直しを何度もしながら進んでいく。いかにスライドを速くし、サイドチェンジをしなければ意味ないです。私たちはサイドからの攻撃が有効的なので、クロスをどう使っていくか。それしかないとも言われているんですが、その強みを自分たちがしっかり理解してやっていって点が取れるのであればいいと思います。もしサイドを消されるのならば、次は中が空いてくる。自分たちが持っているものを出せればいいと思います。」
――その中でも、中島選手に求められていることはどのようなことですか?
「攻撃の起点として、もっとゴールを取ること。そこに関わることを求められていると思います。」
――第15節・AC長野戦では中島選手の蹴ったコーナーキックが直接ゴールに入りました。キックが冴え渡っていましたね。
「まぐれです。まぐれ(笑)チームとしては狙いを持ってたのですが、それが結果につながって良かったです。(太田)萌咲がしっかりGKをブロックしてくれていたので、得点につながったところもあります。上手く手前でバウンドしたというところも大きかったですね。」
勝ちたい気持ちはみんな同じ。だからこそ焦らず、じっくりと土台を作る。
――仙台に来てからの2シーズン、チームは大きな変化を遂げてきました。どんな時も中島選手は変わらず、動じることなくピッチにいますね。
「今は、集中できる環境を作ってもらえて、目的に向かって全員で動いているところがあるので、楽しくやれています。なかなか結果は出ていない。そういうことは悲しいし、苦しいけれど、積み上げているものがあります。積み上げの段階をおろそかにしてしまうと、意味がなくなってしまう。ここをしっかり我慢しながら全員で土台を作ることで、今後強いマイナビになれるんじゃないかと信じながら取り組んでいます。今は結果も出ていないし、『マイナビ弱いな』と言われてもしょうがない。それはわかっているし、勝ちたい気持ちも一緒です。でも正直なところ、そこに達していないと思うので。でもいろんな人から『マイナビ変わってきたね』と言われるので、見ている人に伝わっていればいいなと思います。」
――土台を作る作業はとても大切ですが、結果が出ないと焦れてしまいがちです。焦れずにやっていくためには?
「今、私はチームで最年長で、みんなよりも経験はあると思います。そういう人間がいろいろなことをおろそかにしてはいけない。現役である以上、私も成長したいです。上には上がいるので、もっと私もチームを勝たせられる存在になりたいです。今、チームのために力を注いでくれる方々がいるので、もっといろいろなことを吸収して、強くなりたいし、1つでも多く勝って喜びたい。そこに達するためには今のままではだめです。全員が危機感やプロ意識を持たなければいけない。これは口で言ってもわからないことで、そういうところは環境や経験が元になる部分もある。そういう環境を自分たちで作っていかないとなかなか難しいのかな。例えば、練習の中のボール回しでもタイトに行かなきゃいけない。厳しいく激しい環境に身を置かないと変わっていかないと思います」
強豪チームやなでしこジャパンで、世界レベルの選手たちと磨き合った日々。
――長く強豪であるINAC神戸レオネッサでプレーされていましたね。
「だからこそ余計に比較してしまうところはあるんです。全員が負けず嫌い。そのレベルがI神戸の方がすごいなと思いました。試合に出ていないメンバーの『自分が出てやる』というギラギラ感がすごい。代表経験がある選手が多いから、そういうところもあるのかなと思います。仙台の選手たちは仙台の選手たちで、良いところがたくさんある。純粋で真面目、いい子たちですよ。」
――その「真面目でいい子たち」をどこかで脱却しないと……。
「そうですね。まだまだ若い選手も多いので、全員が代表を目指して欲しいです。そのためにはこのチームで試合に出て、爪痕を残していかないとそういう舞台へはいけないです。マイナビ仙台も順位が下の方なので、いずれ上位3位以内に入るようにやっていかないとそういうことは難しいですよ。」
――WEリーグの上位というところで言うと、アルビレックス新潟レディースが躍進していますよね。
「新潟Lは昨年積み上げたものが、今年出てきているんだと思います。積み上げって大切なんですよ。チームとして何を目的として勝利を目指すかも大事なのかなと思います。更に新潟Lは良い補強ができているんじゃないかと個人的には思いますね。」
――中島選手はなでしこジャパンでも長く戦ってきました。そこでチームの異なる優れた選手たちと磨き合ってきました。
「自分を成長させてくれた場所です。I神戸でも澤穂希さんのようにレベルの高い方々と一緒にプレーできたことも大きな経験です。普段からそういう場所に身を置いていないとできない。練習から質もレベルも高かったです。本当に良い経験ができました。」
――チームの中にいて、毎日が代表活動のような時間です。
「そうですね。世界レベル、トップの中のトップの選手も多かったので、その人達と毎日練習していたら、必然と上手くなりますよね。」
――実際に一緒にプレーして、トップの中のトップと言われる選手たちは、何が違うのですか?
「もう、サッカーの質が違います。全てにおいて。強度も違う。そういう選手が多かったので強くなりますね。後輩たちも『そうなりたい』『負けたくない』と思います。いろんなものをトップ選手から盗めますし、話もできる。そこは本当に大きいんですよ。」
――そういうことを吸収してきた中島選手が、仙台で周りに与える影響も大きいものがありますよ。
「『怖いな、依美さん』って思われているかもしれないです(笑)」
――そんなことはないと思います(笑)試合後に涙をしている若手選手は、まさに成長過程にありますね。
「若い選手は泣いて強くなっていったらいいんです。でも泣くだけではなく、それをばねにする。まだまだ時間があると思いますし。でも時間はあると言いつつ、世界を見ると、若手でもトップで活躍している選手はたくさんいます。」
「戦えるチーム」になっていくために必要なこと。継続はいつか必ず大きな力に。
――様々な経験をしてきた中島選手が、仙台でサッカーを通して目指すものとはどのようなことですか?
「このチームにいる以上、もっと『戦えるチーム』になっていきたいとすごく思います。強いチームでありたいですよね。I神戸や浦和はどんなに試合内容が悪くても絶対勝ち点3を取る。それって強いチームだなって思います。失点しても、絶対に逆転できるとか。強いチームは、負けはしないんですよ。そういうチームでありたいですし、もっと応援してもらえるチームになりたいです。この仙台という地域は、ベガルタ仙台のサポーターも熱く、応援の迫力がすごいじゃないですか。マイナビ仙台も強くなれば、あれくらいお客さんが入ってくれるんじゃないかなって思うので。まずは応援してもらえるように結果を出さなきゃいけないと思います。プロの世界ですから。結果にもこだわりたいですが、時間はかかると思います。」
――土台を作っている段階ですね。
「でもその土台ってとても大事なんです。土台がしっかりしていれば、上にいっても揺れることはないし、崩れることもないです」
――これからサッカーを始める子やプロを目指したい、サッカーに関わりたい子どもたちへアドバイスを頂けますか?
「上手くいくこともあれば、そうでないこともあります。それは当たり前のことです。その上手くいかなかった時に、どう自分で解決するのかというところですね。上手い人の映像を見たり、いろんな人と話してみたり、できないことは練習する。サッカーで練習することや努力することは当たり前で、それをいかに継続できるか。継続がどんなことにおいても大事なんです。結局はそこです。今になって思うんですが、サッカーだけが上手ければいいということではなく、人間としてもしっかりしていなければいけない。スポーツ選手だけではないと思いますが、睡眠や食事も大事なことだと思います。今、痛感しています。これから成長していく子どもたちや中学生、高校生の時から、基本となる部分をしっかりやっていれば、後悔することはないと思います。今、この年齢になって『睡眠って大事なんだ』と改めて思っています。」
――継続が大事と言う中島選手は、まさに継続してきたから選手としても活躍し続けているんですよ。誰もができる経験ではないと思います。
「そうですね。だから感謝しかないんです。何不自由なく好きなことを仕事としてやれていることには改めて感謝をしなければいけないです。当たり前になってしまうから。ふと振り返ると、『感謝だよね』『ありがたいね』『大事にしなきゃいけないよね』って思います。」
文・写真=村林いづみ