【マイヒストリー】國武愛美選手

マイヒストリー

「キャプテンとして成長を遂げたシーズン。
本当に強く、怖いチームになっていくために必要なのは要求する力。」 
5 DF 國武愛美選手

マイナビ仙台レディースの選手に、これまでの歩みを振り返ってもらう「マイヒストリー」。それぞれのサッカー人生に物語があり、かけがえのない記憶があります。第11回は5DF國武愛美選手です。今季キャプテンとして歩んできた日々の思い、サッカーに向き合う考え方を伺いました。

サッカー人生で初めてキャプテンを経験したシーズン

――WEリーグも最終盤戦の戦いになってきました。最近のチームの状況はどう感じていますか?

「なかなかチームとして積み上げができなくて、大変だと思うこともありましたが、今この終盤にかけてやれること、やらなければいけないことがはっきりしました。個人としても、組織としても成長できているのかなと思っています。シーズンは終わってしまうのですが、体制が変わってきた中で、やれるようになってきたことを来季につなげていこうという気持ちでトレーニングしています。」

――新体制ではかなり明確な分析やフィードバックも行われていますね。

「個々が頑張るということは当然なのですが、チームとしてどういうサッカーをしていくのかというところも重要です。試合でミスは起きますが、それが次につながる意味のあるものになるようにできていると思います。」

――今、マイナビ仙台で取り組んでいるサッカーをどのように説明しますか?

「守備と攻撃で1つの流れになっています。良い守備が良い攻撃につながるということはよく言われていますが、それを全員が100%で表現することによって、良いゴールが生まれる。即時奪回、奪われたらすぐに奪い返すというところからゴールに向かっていくということは少しずつできつつあるのかなと思います。そういった部分が仙台の強みになっていくのかなと思います。」

――練習の中でも須永純監督は選手たちに熱く語りかけていますね。伝わってくるものがあります。

「伝え方は優しいですが、その言葉の中に重みがあります。須永さんから勝ちたいという気持ちが伝わってきます。監督が代わってまだ勝てていない状況なので(取材日は5月15日。その4日後、第21節・C大阪戦で須永監督初勝利)自分のためでもありますが、須永さんのためにも勝ちたいという気持ちがあります。」

――今季、國武選手はキャプテンも務めてきました。初めての経験でしたね。

「最初にキャプテンをやらないかと言われた時はすごく悩みました。そういうキャラクターじゃないと思ったんです。無理かなと思っていたのですが、1つレベルを上げるということや年齢を考えた上でも、もっと成長しなければいけない。1つ前のシーズンにも、マイナビ仙台レディースで成長をさせてもらったと思っているので、このチームで1つギアを上げて、更に自分を成長させたいと考えました。いろんな人に相談して、いろんな意見をもらいましたが、最後は自分でやる決めました。」

――大きな決断でしたね。

「周りがすごく助けてくれたんです。みんなに相談してきました。キャプテンですが、自分1人でやってきたわけじゃないなと思います。みんなに感謝しています。」

――大変と一言では言い切れない位、特別な経験もし、受け取るものもあったシーズンなのかなと思いました。

「成長できたかと言われたら、本当にできたかはわからないです。やれること、やらなきゃいけないことははっきりしたと思います。」

――そういうことの感じ方も、キャプテンを経験する前後では異なっているのではないですか?

「はい。以前の私は(上の選手に)ついて行くだけだったので。率先して声を出す、何かするというタイプではなかった。プレーでしか見せられなかったです。その分、キャプテンとしてもっとやらなければいけないという意識に変わり、これがキャプテンじゃなくてもやっていかなければいけないなって思いました。」

――チームを引っ張っていく立場だと、厳しいことも言わなければいけない状況もありますよね。一方で、國武選手が涙する若手選手に寄り添って、長い時間話を聞く姿もとても印象的でした。

「ああいうことは以前なら絶対やらなかったですね(笑)100%やっていなかった。泣いていても声をかけることはできなかったです。」

全試合で先発出場。変化してきた仙台を見つめて。

――サッカーのプレーにフォーカスすると、國武選手に求められることは変わっていきましたか?

「基本的には変わっていないですね。細かいことですが、自分がもう1つできるようになればチームが楽になる、前に進むことができるということがあります。ゴールに近づくことができるし、相手のボールを自分たちのゴールから遠ざけることができます。根本的なところは変わっていないですが、もう1つボールを運ぶこと、その運び方、ボールをつける位置など。当たり前ですがそういうところのレベルは少しずつ上がってきているのかなと思います。求められることもありますが、自分で考えることも増えました。」

――センターバック(CB)というポジションで考えると、國武選手のパートナーはよく変わりました。

「実はそれが一番大変でした(笑)今年は連戦も多く、1週間に3試合あったりすると、変わった選手とプレーの意図を合わせることも難しかったです。疲労もあり、練習強度も上げられない中で相方が変わるという状況。やることは変わらないのですが、味方の特長で立ち位置もプレーも変わってくるので、それが悩みどころでした。オケケとのコンビでは、なかなか言葉が通じない難しさがあります。ちょっとしたニュアンスも違うし、試合のピッチの中には通訳さんもいない。0.0何秒という時間が大事になって来る中で、とっさに出てくる言葉が日本語だったりもする。オケケの良さを出してあげたい、でもチームとしてやらなければいけないこともあるので……。」

――コンビを組む選手はその時々で変わりましたが、出場記録を見ると、國武選手は全試合で先発出場を続けてきましたね。

「意識して考えたことはないですが、言われてみると『そうなんだ……』という感じです。でも足を攣って交代したりしました(笑)」

――2020年仙台に来てからの早くも4シーズン。その間、チームは大きな変化を遂げてきました。國武選手は仙台でも長い方になってきましたね。

「長い方だと思います。マイナビベガルタ仙台レディース時代は、前にボールを蹴るチームだと思っていました。WEリーグになって、監督も変わった中で、ポゼッションしてゴールに迫っていくチームに変わったと思っています。それまでやってきたことと180度違うので、すぐは上手くは行かない。でも学びがあって、私自身にとっても新しい挑戦でした。すごく楽しかったです。今はつなぐチームになってきたと思うので、それをもっともっと強みにして、ゴール前に迫り、全員が怖いと思われる選手に成長していけたらと思います。」

――WEリーグ初年度の松田岳夫監督(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の時に取り組んでいたポゼッションは、あの頃は大変だったと思いますが、選手たちの中で貯金のように蓄積されているものもあるのではないかと。

「そうですね。あの時はみんなパンクしていたんじゃないかと思うんですが(笑)でも、そのベースを作ってくれたからこそ、今の自分たちがあると思います。まだ底辺かもしれないけど、ベースはある。今も新しいサッカーに対して、次々と取り組めているのかなと思います。」

強豪チームから感じる「怖さ」。メンタルの強さを身に着けていくために。

――このチームが強くなっていくためにどういうことが必要だと感じていますか?

「強豪と言われるチームには怖さがあると思います。『この選手、嫌だな』とか、『このチームとは対戦したくない』とか。私たちは、試合が始まって、最初は行けるかも?と思っても、段々相手に押され始めて、自信がないようなプレーが出てきてしまう。メンタル面の弱さですよね。そういうところについて、浦和やI神戸、東京NBなどは怖いなと思わせるようなメンタルを持っている。メンタル面の作り方も必要だよねと話しています。そういうところは、まだみんな弱いです。」

――何が違うのでしょうか。

「優勝を経験しているチームは『何かやって来るだろうな』という感じがある。オフェンスの選手なら『この人、点を取りそうだな』、ディフェンスの選手なら『この人とマッチアップしたくないな』という感じ。オーラのようなものを身につけないといけない。今季、始まる前に上位3位以内に入ると言っていましたが、遠いんじゃないかなと思います。技術だけではないですよね。怖さがないと3強には勝てないと思いました。」

――その怖さはどうやって身に着けていくものだと思いますか?

「練習の中からもっと要求をしていくことかもしれません。(中島)依美さんや(後藤)三知さんなど、強豪クラブにいた人はわかっていると思います。レベルの高い要求ができるし、要求するからには自分も絶対にやらなければいけない。そういうことを当たり前にできるんです。でも、このチームにはまだそういう選手は少ない。そこは見習わなきゃいけないと思っています。チームメートが仲良しなのは良いことですが、ピッチに入ったらもっと厳しくやらなければいけないです。他のチームは厳しくやっていると思うんです。コミュニケーションを取ることはできます。それだけではなくて、もっとバチバチぶつかり合うということが必要なんだと思います。私もそういう強いチームにいたことがないので、練習中のレベルは経験していない。そういう選手が多いと思うんです。」

――どこまで厳しく言い合うかというところも本当に難しいと思います。

「依美さんは言ってくれる。依美さんたちが経験してきた厳しさはこんなものではないと思います。」

――前回の「マイヒストリー」で中島選手は「若い選手は泣いて強くなっていったらいい」と言っていました。

「そうですね。悔しさといろんな感情が入り混じって泣いてしまうのかもしれません。でも、私はどこかでバランスも必要だと思っています。厳しく言う人がいて、それをカバーする人がいて、というバランスです。今、私はカバーする方に回っていて、厳しいことも言えるようにならないといけない思っています。厳しいことを言ってくれる人がずっといてくれるわけではないと思いますし……。」

いつも「今シーズンが最後」という覚悟でプロの世界と向き合う。

――そういうことを國武選手も深く考えるようになったのは、キャプテンをしてきたかもしれませんね。立場が人を変えたり、成長させていくということでしょうか。「キャプテンの國武選手」ではなく、個人としては、どんな風にサッカーと向き合っていきたいですか?

「毎年、『今シーズンで最後』と思いながら、一年一年やっているんです。次があると思いながらやっていないです。プロなので、必ずしも翌年も契約してもらえるかわからないということを感じています。だから、今やらないと次がない。あと何年続けるということではなく、今年が最後かもしれないという思いでやっているので、どう次につなげていくかは考えていないです。」

――「今」なんですね。

「『今』です。」

――プロサッカー選手、國武愛美は「今」を生きていると。

「格好いい感じになっていますけど(笑)」

――潔くて、侍のような格好良さです。

「何歳まで選手をやるということも考えていないです。24歳でプロになって、25歳くらいからですね。今年で最後という思いでやっています。」

――それがプロの厳しさでもありますね。

「それもそうですし、『自分がプレーできない』『試合に出られない。だから引退しよう』と思って辞めるのが悔しいなと思うんです。やりきったなと思えるタイミングで終わりたいです。だから一年一年ということを思っています。やりきったと思える日は来るかな?」

――そういう人は、なかなかやりきったとは思えなかったりするんですよ(笑)どこまでも追及していくので。

「40歳までやっているかもしれないですね(笑)」

――ぜひ続けて頂きたいです。これからサッカーを始める子やプロを目指したい、サッカーに関わりたい子どもたちへアドバイスを頂けますか?

「私は楽しむことが一番大事かなと思っています。楽しかったら、どうしようかな?という気持ちにはならないんじゃないかと思います。辞めたいなという気持ちにもならないと思います。今まで続けてきた中で、サッカーをするなら楽しまなきゃ意味がないと思っています。やりたい!という気持ちにならないと続けられない。私は、小学校は地元のクラブでしたが、中学校から全部自分で選んできました。」

――自分で選んで、つかみ取ってきたんですね。

「親が決めたから、友達がいるからということではなく、自分が選んだからやらなきゃいけない。そういう中で楽しいと思えない、しんどい、苦しい場所もありました。でもそういう時は場所を変えるということをしてきました。どうしようと迷っているとしたら、自分が楽しめる場所に行くとか、楽しめそうだなという環境を選ぶことですね。」

文・写真=村林いづみ
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